──ツアーは2年振りになりますが、久し振りという感覚はありますか。
あるよ。人前で歌うっていうイメージが湧かないもんな。去年の夏に武道館で『日本をすくえ!』とかやったけど、所詮、一曲歌ってお茶濁して逃げるっていうさ(笑)。ところが今回は全部歌うわけでしょ。あんなに声出して、ちゃんとキャンセルしないで続くかなって・。でも、今回はやってみなきゃわからないことがいっぱいあるよな。たとえば、映画が出来上がってプロモーションしなきゃっていうようなことになれば、一番企画としてやり易いわけ。『プロモーション用のツアーです』って言っちゃえば、何にも考えないじゃない?でも、今回みたいになんにもないと、神髄に迫っていっちゃうわけ。俺は気楽に「ステージ命だよ』っていうタイプでもないからさ。できれば避けたいと思ってる方で(笑)。理由づけが必要なんだよ。軽いところも、すっごくいい加減なところもあるんだけど、基本的には大義名分が好きだから。まあ、実際見にくるお客さん達はそんなに理屈っぽくないんだけど、そういう事に甘えているといいもの出来ないんだよ、よっぽど練っていかないと。で、お客さんが「楽しかったね』っていう時は、こっちがそうとう計算して考えてたりする時だったりするからね。
──その大義名分は「FUN MORE TIME!」というタイトルの中に秘められていそうですね。
そう、だから、いつもタイトルは一生懸命考えるわけ。今回は「FUN MORE TIME!』。あ、これにぶらさがって出来そうだなっていう。これにはちょっと深い意味があって、それは自分だけの問題なんだけど…。それと、まあとにかく今回は、『楽しくやろうぜ』っていうね。最初からプラスを作っちゃう。無理やり楽しくしてるうちに、ホントに楽しくなっちゃうかもしれないって事っていつぱいあるじゃない。怒った顔してるより、楽しそうにしてた方がまわりも楽しいしさ。
──ポジティブ・シンキングですね。
いや、俺はそもそもマイナス思考だからね。マイナスのことばっかり勘定しちゃう方なんだけど、長嶋監督のように、プラスに出していこうぜっていうことで付けたんだよ。とにかくやったあとに、やって良かったっていうふうに絶対に残るだろうと、最初に確信を持って。だから『日本をすくえ!』の時も、泉谷が話持って来て、ああ、これ最初から付き合ったら、人集めたり、大変だなって思ったんだけど、やることに絶対価値あるなって。だから、確信犯だよ(笑)。その時のライブの編集にしても、拓郎に『おまえ、責任持ってやれ』って言われたって、めんどくせーなって話なのよ、いろんな意味で。どうせやるなら格好良くなかったらイヤだしね。でも、ヨシ、わかったと、引き受けちゃうと(笑)。
──"確信犯”の傾向は昔から?
昔からそういうとこあるな。引き受けちゃってから、とにかく喜んでもらおうと思って頑張る。小学校の時からずっとそうだったな。高校生の頃なんかも、キャンプとか行くのすごく厭だったんだ。山歩くばっかりで、風呂は入れないし、辛い事ばっかりでさ。ところが終わって帰ってくると凄くいい思い出になってるわけ。だから、まあいいか、今年も行って頑張ってこようって。それと同じなんだよ。とにかく、辛くても背負っちゃう、引き受けちゃう、と。なんか、やばいな、大丈夫かなっていう事を、なんとかクリアしていく事の方が、今の自分には合ってる気がするんだよ。で、結果、やる前の『やれば絶対やって良かったと思えるんだ』って確信した事を、本当にやって良かったって実感できる事実だよな、大事なのは。たとえ、ああやらなきゃよかったなって思っても、自分が頑張って、精一杯やったんならそれはそれでいいし、実際、結果が良かったと思えれば、それはもう最高なんだから。
──短い言葉の中に、深い意味が込められているんですね。
そういうの好きなんだな。オフコースの時のタイトルでも、『We are』とか『over』とかあの頃はこんなこと考えてこんな状況だったな、とかいろんなこと思い出すからさ。付けた時はそれに向かって行けて、振り返った時、セコイのはイヤだし、すぐにアイデンティティのあるものっていうのが好きなんだな。
──今回は今までと違ったコンサートになりそうですか?
とりあえず頭からリラックスしていけるってことはあるかな。自分の気持ちの持ち方が違うからね。今回はもう俺の生身でワーツて出ていって喜んでもらうしかないって感じ(笑)。仕掛けのある、コンセプトアルバムに直結して構築してくっていうんじゃないからさ。それより、ナマの演奏をきっちりやると。今までももちろんナマでやってたんだけど、さらにそういう合いの濃いものをね。だから場所によっては、次の日休みだったら、コンサート終わってメシ食った後、どっかのライブハウス出て、演奏しちゃったり。そういう事、前からやってみたかったのよ。その日その日で突然乗り込むってようなね。俺なんかは楽器演奏者じゃないから、例えばサックス一本持って、誰かのライブに飛び入りするって事がないからさ、そういうセッションってすごく憧れがあったんだよ。アマチュアの時は、友達のところに遊びに行って歌ったり、ジャズ喫茶とかフォーク喫茶とかに行って歌っちゃったりしてたけど。そういうの楽しいじゃないハプニングっていうか、そういうものが本来ライブにはあったじゃない?今は絶対負けない構成とシステムの中で消化していくっていうのが当り前みたいになっちやったからさ、今回はそうじゃないものをやってみたいんだよね。
──ある種、学園祭のようなノリが……。
まあ、基本的にそういうのが出来ればいいね。企画された普通のコンサートって、どうしても金取った分、企画されたものをキッチリそこで再現して見せてあげなくちゃっていう、固定観念があるじゃない。極端に言えば、映画のように、一方的に演奏して、2時間したら大体終わってるっていうね。学園祭って、この前東北大でやった時もすっげ一盛り上がったんだよ。学生達にとっては、俺が先輩だっていう婚しさもあったかもしれないけど、金は貰ってるけど、おまえらも楽しんで帰れよっていうのがあるんだな。みんな一緒にやろうよと。だから今回なんかは、そういうのをゴチャマゼにしてもいいと思うわけ。ライブっていう、言葉どうりの生きた時間軸の中で一緒にいようと。で、今回は、みんなが聞きたいなら、アンコール30分やるかもしれないよって言うような、そういう揺れ動くものをやりたいと思うわけ。だから、今まではMCもしないで演奏だけ一生懸命やって、歌だけ歌っていればシラけない構成っていうのをやってきたけど、今回はとにかく、MCもしたい時にすると。で、お客さんはその話を聞いて喜んでくれると(笑)。まあどうしても50本60本になってくると話のネタも尽きてくるけど、スタッフにもバンドにも、『この話、聞いたことある』『またあの話だ』って思われるのもイヤなんで…。いつ演奏に入るかわからないように、後ろにいる連中がいつでも聞いてなきゃいけないような話をしていかないとね。あと、客をステージにあげちゃうようなことも出来ればいいなと。ただ、それも、そういうコーナーです、みたいになっちゃうとすごく負担だから、あくまでもいろんな事がハプニングで起こっていけばいいなと思うけど…、まあ、手探りだね。
──キャパの大、中、小ということで言えば、今回のツアーは"大”なわけですけど。
本当は小さいところが一番難しいんだよ。客の顔が見えて目が合って、相当頑張っていかないとさ。デカイところっていうのは、ボンヤリした雰囲気で、ああ、なかなかスケール大きいなって見えるかもしれないけれど。小さいところだと、目がうつろになってるな、みたいなところまで見えちゃう可能性もあるわけで(笑)。すっごくシャープになってないと出来ないのがライブハウスなのよ。そういう意味では、大は小を兼ねるっていうけど、この場合は小は大を兼ねるんだろうな。だから、今回なんかは、キャバは大だけど、中とか小の気持ちでやろうってことだよね。
──そんなツアーで始まる95年は、どんな年になりそうですか?
去年、天中殺に近いものがあったらしいんだよ。俺、そういうのを知った事でがんじがらめになっちゃうのが厭だから、あんまり占いとか見ないんだけど。でも、見てしまった以上、避けられるものは避けたいじゃない。たまたま「日本をすくえ!」の武道館やってる時に見ちやったんだけど、みんな一緒だったからさ、『みんなで渡れば怖くない』ってことで(笑)。本当はツアーも11月からの予定だったんだけど、ずらしてね。
でも、あとからわかった事にしても、去年は結構いろんなことやっちゃったよな。ただ、青木さんが一緒にいたり、泉谷がいたり、お千代さんだったりマーチンだったり、単独ではなかったから良かったのかな。去年から良くなって、再来年はすごくいいって言うんだよ。次の映画もだんだんそっち向いてるし、制作的な依頼っていうのもポツポツあるからさ。負担になっちゃうといけないけど、自分の城に閉じこもらないで、いろんな人と仕事やるっていうのを出来るだけやっていきたいな。どういうものを増やしていこうっていうより、とにかく、確信犯の話じゃないけど、来たものをやってみると。で、映画に関しては、こっちからポジティブに作っていくと。まあ、でも、どうなるんでしょうかねえ(笑)。でも、この間、ウチのスタッフの吉田が2000年までのスケジュール表作ってきやがってさ(笑)、たとえばこういう形でどうでしょう、みたいに。あと5年なんだよな。こうやってどんどん時間は過ぎて行くわけさ。俺はとにかく、もし今死んじゃうとなったら、映画をあと一本作りたかったなっていうのが、すごい心残りだろうな。私生活は別としてね。他はきりないし、一生懸命やってきたし。そう考えると、今回のツアーは、『また映画をやるから是非観にきて下さい』っていう意思表明というか挨拶というか、それをみんなの耳に直接いれて置きたいと、そういうことだな(笑)。
FUN MORE TIME! KAZUMASA ODA TOUR 1995